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クリフォード・D・シマックは『都市 ――ある未来叙事詩――』(林克己他訳、早川書房)を1952年に発表しました。

シマックの著作については、以前にも『中継ステーション』(新訳版)をご紹介したことがあります。もちろん『都市』は(『中継ステーション』以上に様々な読みかたのできる)魅力あふれる作品ですが、60年代当時の翻訳(そして残念ながら絶版)だということ、また現代からみるとテクノロジーの理解について違和感を覚える(かなり素朴な)ところもあるので、そこはちょっと注意が必要です。

けれどもそれ以上にシマックの作品に引き込まれる理由として、『中継ステーション』と同じく、古きよき時代への郷愁、ゆったりとした時間の流れ、自然の豊かさといった牧歌的な要素とその語り口のうまさがあります。

ページを捲るとすぐに、この作品が8つのパートに分かれた古い文献から構成されていて、1万年後の読者に向けて書かれたものである、という体裁をとっていることがわかります(その後、1973年にシマックは9番目の「エピローグ」を書き添えました)。

1万年後の未来ともなると、人間はほとんど地球上に生存しておらず、もはや神話的な存在となっています。人間がつくった文明を引き継ぎ、代わりを務めているのは、長年に渡って人間の良き友であった「犬」族と旧式のロボットです。現代の視点からすると、「サイボーグ宣言」で有名なダナ・ハラウェイが提唱した「コンパニオン・スピーシーズ」を想起させたり、あるいは人間以後の存在としての「ポストヒューマン」といった論点を読み取ることさえ可能かもしれません。

この作品のなかで人間は、地球に残された生き物にとって機械文明を築いた忘れられた「神」のような存在でありつつも、他方では「殺戮」を繰り返すしかなかった危険な存在として描かれています。

シマックが人間を、とりわけ地球環境や他の生き物に対して、いかなる存在だと考えていたのか。そして結局のところ、作中で彼が人間にどのような行動を取らせたか(判断を下したか)。これらのことについて、いつか『都市』の新訳が出た際には、実際に手にとって読み解いていただければと思います。