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Way Station

ウンベルトラボの棚で見つけた、クリフォード・D・シマック著『中継ステーション』(山田順子訳/早川書房)を読みました。のんびりした気分を味わえる SF です。

めったに人前に姿を現さない主人公 イーノック・ウォレス。ほとんどの時間を家のなかで過ごす彼は、地球にただ一箇所だけつくられた「中継ステーション」の管理を生業としています。

イーノックの家は外から見ると、なんの変哲もないちょっと古めかしい建物なのですが、インテリアは極めて特殊です。なにしろそれが「中継ステーション」なので、星から星へと旅するさまざまな異星人を出迎え、無事に送り出すために必要な設備が備わっているのです。また、イーノック以外の人は外から入れないという不思議な構造になっていて、その内部にいると歳を取らないという驚きの機能まで付与されています。イーノックの見た目はずっと30歳くらいのまま(本当だと120歳は優に超えているはずなのですが)。それを怪しむ人がほとんどいないのは、彼が極力外出しないことと田舎にいるためだと説明されています。

豊かな自然環境(作者シマックの故郷、アメリカ・ウィスコンシン州ミルヴィルが舞台)とそれに支えられた暮らしは、ストーリーに奥行きを与え、読み応えあるものにしています。

イーノックが心を許す数少ない友人のうちの一人が、郵便配達人 ウインズロウ。彼の趣味が木彫だという設定も自然が身近にあることをより印象づけています。ウインズロウは、とても無口で必要以上のことは話さない実直な性格。それでいてイーノックを親身に思うエピソードが要所にあり、イーノックとウインズロウのお互いのやりとりには胸がじわっと熱くなりました。

宇宙旅行の「中継ステーション」という設定から、藤子・F・不二雄先生の『21エモン』を思い出したりもしました。地球では考えられない進化を遂げた異星人たちが、いろいろなお土産(奇妙なオブジェや木材らしきもの。後者はウインズロウの木彫用にとイーノックが敢えて指定している)を持ってきて、それらをイーノックが暖炉の上など、部屋に楽しく飾っているという描写も個人的に興味深いところです。

約60年前に書かれた作品ですが、いま改めて読み返される SF のひとつだと思います(現在 Netflix が『中継ステーション』を映画化しているという話もあります)。