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HIBI WO TSUNAGU

先月から気になっていた記録映画の特集上映『日々をつなぐ』。「生活」と「編集」をテーマに選ばれたドキュメンタリー映画を見に、大阪・九条のシネ・ヌーヴォへ行ってきました。

The other day I went to Cine Nouveau, a movie theater in Osaka, to watch documentary films on the themes of Life and Editing.

初日の上映は、大川景子監督『Oasis』、飯岡幸子監督『ヒノサト』、小田香監督『カラオケ喫茶ボサ』の3作品でした。

『Oasis』は2023年の作品。監督 大川景子さんと学生の頃から二十年以上の知り合いで、今もご近所に暮らしているという自転車愛好家の下山林太郎さんとアーティストの大原舞さんの暮らしぶりが、親愛に満ちた視点で切り取られています。

自転車のスピードで見える東京の街は、やっぱり坂道が多い印象でした。二人の後ろから監督が iPhone で撮ったという下り坂の映像は、ちょっと恐れをなすくらいの疾走感。それとは対照的に、首都高の高架下や廃墟のような工事現場の近くでわさわさと増殖するさまざまな植物を興味深く観察する様子はゆったり、和気藹々としています。そうやって二人で実際に見つけた場所や植物が、舞さんの作品に昇華される過程を観客は画面を通して見守りつつ、また一方では『Oasis』の音にまつわる編集の裏側を垣間見ます。小さな謎が解けるような楽しみもありました。家で使われている食器に蛸唐草文が多いのは、舞さんの作品との共通項でもあるのかなと思ったり。

『ヒノサト』は、映画美学校ドキュメンタリーコースの修了作品として2002年につくられました。監督 飯岡幸子さんのご実家がある福岡県宗像市日の里が舞台だそうです。

カメラは道ゆく人や風景を場所を変えつつ、ただそのまま映し取っています。予備知識なしに鑑賞したので、『いったいカメラは何を追っているんだろう』と不思議に思いながらひきこまれました。すると、学生が行き交う学校の廊下や公民館のような人が集うにぎやかな場所に飾られているいくつかの油彩画が映し出されます。絵のサインはどれもO. Iioka。その絵もまた飯岡監督の寡黙なカメラアングルのように、静かに空間を見守っているかに見えました。サインの主は監督のおじいさまに当たる方で、このドキュメンタリーを撮るきっかけとなったのも、美術教師だったおじいさまが残された古い蓄音機だったそうです。

蓄音機やレコードは監督のご実家に引き継がれ、お父さまがSPレコードを手入れされたり、仲間と音の鑑賞をされる様子も。たびたび映っていたその部屋は特に印象的でした。外の緑がよく見える大きな窓の下には備え付けの低い棚があり、置かれた椅子は豊口克平やジョージナカシマのラウンジチェア、イームズのアームシェルチェアなど。空間になじんでとても素敵だったので、上映後にお話ができた監督に尋ねると「プロダクトデザイナーの父の趣味です。祖父が暮らした家は別にあって、今も残っていて」とのことでした。風景と人と空間のバランスが心地よかったです。

最後の『カラオケ喫茶ボサ』は13分の短編映画でした。こちらは2022年の作品です。コロナ禍の上に、ロシアのウクライナへの軍事侵攻がはじまったとき、小田香監督は当時お母さまが経営されていた「カラオケ喫茶ボサ」に集う常連のお客さんやお母さまに(たぶん)「60年後はどうなっていてほしい?何を望みますか?」と質問を投げかけます。

お客さんそれぞれの答え(声の感じから、緊張感もちょっぴり伝わってきます)と、みなさんが楽しそうにカラオケを歌う映像。今から二年前の作品なのに、なんだかとっても懐かしく見えるのは、8ミリフィルムで撮影された色合いだからでしょうか、多重露光も加わって。

小田監督は、お母さまの記録を続けてこられたようで、上映後のトークショーでは「カメラを回しても最初から自然に動けるので、そういう素地はありそう」とおっしゃっていました。ありがたい逸材ですね。

3作品とも、それぞれに楽しむことができました。

映画について専門的なことは分かりませんが、誰かの日々の生活をある視点で切り取って編集すると、そこに特別な物語が生まれることを実感しました。今や個人が自ら編集した生活を YouTube や Vlog などで積極的に発信できてしまう時代ですが、上映後のトークショーで大川景子監督が話された「編集の魔法」という言葉はほんとうにそうだと思います。

映画に詰まったたくさんの魔法のために、わたしたちはまた映画館に足を運びたくなるのでしょう。よい一日でした。