寒い冬の日は、家のなかでの読書も楽しいひとときですね。
今年文庫化された、カズオ・イシグロ 土屋政雄訳『クララとお日さま』(早川書房)を読みました。
はじまりはお店から。そこでは、AF(人工親友)と呼ばれる人工知能搭載のロボットがいくつも陳列され、お友だち(引き取り手)になってくれる人間の子どもの登場を今か今かと待っています。
ここで、AFには新型(B3)と旧型(B2)があり、単なる性能の違いだけでなく、性格にも大きく個体差があること、それぞれが名前で呼ばれる様子が描かれます。
物語は、お店に並ぶ一体のクララというB2型のAFを通して語られます。登場人物のひとりである店長さんによると、クララは「よく観察し、多くを学ぶAF」。新旧関係なく、ほかの個体とは違っていると店長さんも一目置く存在です。
もの静かで鋭い洞察力を併せ持つクララの語り口から、わたしは読むほどに興味を惹かれていきました。とはいえ終始冷静沈着かと思いきや、例えばソファに呼び名を付けるところはとてもかわいいし、実はちょっと頑固な一面をうかがわせる場面もあります。また、彼女がお日さまに一心に祈り願う様子はほんとうに健気でなりません。
そしてわたしたち読者は、思慮深いクララの思いの深さをどの登場人物よりも知ることになるという展開がユニークだと思いました。
AIとの共存、ポストヒューマンと知性、信仰心、生命倫理や環境問題など、今とこれからの時代に避けては通れないテーマがいくつも積み重なっているので、読み終えてもまたページをめくり、思い巡らせています。